チーム・バチスタの栄光

チーム・バチスタの栄光(上) 「このミス」大賞シリーズ (宝島社文庫 599)

チーム・バチスタの栄光(上) 「このミス」大賞シリーズ (宝島社文庫 599)

チーム・バチスタの栄光(下) 「このミス」大賞シリーズ (宝島社文庫 600)

チーム・バチスタの栄光(下) 「このミス」大賞シリーズ (宝島社文庫 600)

毎度お馴染み「今更そんな有名なの読んでんの」シリーズ。

第4回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作。ドラマや映画になっている人気作だということは知っていたけど、いや知っていたからこそ世間で人気の作品だと聞くと読む気が無くなるひねくれた性根の持ち主であるところの私は本書をこれまで本棚の肥やしにしていましたとさ。で、いい加減変な意地を張るのも止めようと読んでみたところ確かに面白い。そりゃ人気も出ますわな。

舞台は地方都市の大学病院。主人公は、出世街道から距離を置く万年講師の田口医師。その病院には心臓移植の代替手術であるバチスタ手術専門の外科チームがある。「チーム・バチスタ」と呼ばれるそのチームは成功率の低いバチスタ手術を次々に成功させていたが、ここ数例立て続けに術中死が起こっていた。術中死は事故か医療過誤死かそれとも殺人か、田口は内部調査を依頼される。

そんな訳で田口センセイの調査が始まるわけですが、まずこの田口センセイのキャラクターが秀逸。登場人物がみんなキャラが立ってるってのはこの作品の特色の一つだと思うんだけど、その中心に立つ人間としてこの人の人物造形は見事だと思う。この辺りは巻末の解説に見事に表されていて流石にプロの書評家はいいこと言うなと思ったんだけど、彼は「変わり者だが変人ではなく、横着者だが真摯に患者に向かい、冷めているようで内部に熱を封じ込めている特異なキャラクター(下巻p267)」で、個性的な他キャラの魅力を引き出しつつ自分もいい味出してるというおいしい人な訳ですよ。

上下巻ともストーリーはチームバチスタの面々に対する聞き取り調査を中心に進行する。上巻は田口センセイが聞き取り調査をしつつ事件の経緯を整理し、次のバチスタ手術は成功するのか否かが焦点になる。そして下巻で登場し田口センセイの相棒になるのが厚生労働省の役人で「ロジカルモンスター」「火喰い鳥」の異名を持つ白鳥。この人のキャラクターがまた強烈。頭が良くてエキセントリックで口が悪くて慇懃無礼(無礼多め)といった人で、上巻で田口センセイが聞き取り調査をする過程で浮かび上がってきていたチームバチスタの面々の人物像を下巻では白鳥がガンガン揺さぶっていく。光を当てる方向によって像が異なると言うか、個性的な面々と、方向性の違う二人の聞き手との遣り取りとその差異が面白かった。

ちょっと不満だったのは犯人像。この人は自分が犯人だとばれた後に急に豹変して動機の告白をするんだけど、この内容がどうにもこの作品に合わない気がする。そういうドス黒い動機は違うと思いますよ。この作品、出てくる人達はみんな何やかやで魅力的なんですよ。本書の作者は現役の医師で作中では崩壊寸前の大学病院の現状や医療現場の危機的状況が描かれるんだけど、この作品に出てくる人達は何やかやでそういうのを乗り切れそうな感じの魅力的な人達なんだよね。と言うか、作者は一緒に働きたいような人を書いてるんじゃないかと思う。で、そういう人達と無差別殺人の犯人とをすりあわせることができずに犯人一人だけ急に絶対悪に豹変するみたいな変なことになったんじゃないかなぁ。

まぁでもそれ以外は非常に面白かったです。ありがとうございました。