煙か土か食い物

「まったく素晴らしい思いつきだ。俺は冴えている。冴えまくっている。いや本当はトチ狂っているんだ。俺はとんでもなく馬鹿げたことを考えそれをさらに実行しようとしている。止したほうがいい。絶対に止したほうがいい。」(p63)

煙か土か食い物 (講談社文庫)

煙か土か食い物 (講談社文庫)

主人公・奈津川四郎はサンディエゴのホッジ総合病院で働く腕利きの救命外科医。母親が連続主婦殴打生き埋め事件の被害者になったとの凶報を受けて故郷福井に帰り、復讐のために動き始める。


主人公の一人称の語りで物語が進んでいくんだけど、この語りが素晴らしい。ほとんど改行を行わない文体は密度が高くてスピード感に溢れている。頭の回転が速くて血の気が多い主人公の性格がダイレクトに表現されている。

犯人捜し・復讐と並んで本筋となるのが奈津川家の物語。この血と暴力にまみれた奈津川家の話が文学していてまた素晴らしい。出てくる人間はみんな激しくて振り切れてる感じなんだけど、そういう中でも説得力のある描写をされていて文体と相まってぐいぐい読まされる。

ラストの奈津川邸での大立ち回りも圧巻。燃えてくる。やっぱり物語の最後にはカタルシスがないとね。

素晴らしい読書体験でした。ありがとうございました。