グランド・フィナーレ

グランド・フィナーレ (講談社文庫)

グランド・フィナーレ (講談社文庫)

第132回芥川賞受賞作。娘の裸の写真を撮っていたことがバレて妻から離縁されたロリコン男が主人公。失職して故郷に戻り、娘と会えない喪失感を抱きつつ毎日を過ごしているところへ、教育映画の監督をしていた経歴を買われて演劇の指導を依頼される。そこで2人の少女と出会って何やかんやあって主人公がその2人を助けようとする。

助けようとする話なんだけど、どうにも不穏なんだよなー。助けようと決心して行動にうつすところで話は終わるんだけど本当に助けたのかなあ。というのも、この話は主人公の一人称で進行するんだけど、この主人公の語りが信用できない。嘘を言っているとかそういう話ではなくて人間性の問題というか、「反省してます」って言って本人も反省してるつもりなんだけどすぐまた同じことを繰り返すとかそういう感じの信用のできなさ。初めは、娘に対する愛情が過多の父親みたいな感じで登場するんですよ。離婚した妻に引き取られた娘に会いたいけど禁止されてるから会えない、どうしようみたいな。で、その程度の話だったのが物語が進むにつれて、娘の裸の写真を撮っていました、娘以外の少女の写真も撮っていました、それを使って商売もしていました、小6とセックスもしました。ってエスカレートしていく。ここで恐ろしいのが、物語が進むにつれて人間の屑の本性が現れてきたとかではなくて、軽蔑すべき事実が明らかになっていくのに本人の語りから受ける印象は初めと変わらないんだよね。本当は極悪人の異常者のはずなんだけど、一見すると普通の人間な感じなのが怖い。だから最後の方のシーンで2人の少女を助けようとしているところも、字義通りに受け止めることができない。普通ならそのまま助けるんだろうけど、コイツは普通の様子でエグイことしそうだからなー。ってなる。深読みしすぎなのかもしれないけど。

読後感が非常に複雑。でも、こういう変な読後感こそ文学って気もする。ありがとうございました。