フランケンシュタイン

「誰かがおれに善い感情を持ってくれさえしたら、おれは百倍、二百倍にもして返してやろう。そのたったひとりのために、全種族と和解もしよう!だがそんな幸せを夢見ても、現実になりはしない。」

フランケンシュタイン (創元推理文庫 (532‐1))

フランケンシュタイン (創元推理文庫 (532‐1))

知的好奇心にかられて人造人間を作り出したフランケンシュタイン博士。
しかし、作り出された人造人間は怪物と呼ぶしかないような醜い生き物だった。


フランケンシュタイン。もちろんそのタイトルは知っていたが、内容自体はあまり良く知らなかった。マッドサイエンティストフランケンシュタインと言う名の怪物(頭にボルトが刺さっているようなやつ)を作り出して云々、というホラー作品を想像していたが、読んでみるとまったく違った。
予期せぬ恐ろしい怪物を生み出してしまった科学者の悲哀と絶望。その醜さのために全ての人間から拒絶される怪物の孤独と絶望。そういったものが描かれていた。

原題は「フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス」。このプロメテウスとはギリシア神話の神の一人で、人類に火を与えるがその行為に怒ったゼウスによって半永久的な拷問を行われた者である。それを考えるとこの物語は、行き過ぎた行いをしてしたまったフランケンシュタインの苦しみを描いたものであり、彼が主人公だと解釈するのが妥当なのかもしれない。しかし私は、途中から、創造された怪物のほうに感情移入して読んだ。

序盤は確かに怪物を作り出してしまった人間の悲劇の物語だった。自分の作り出した怪物(作中では名前はない)が人を殺したのを知ってまるで自分が人を殺したかのように苦しみ、フランケンシュタイン博士は怪物を深く憎む。

しかし、中盤で怪物の悲劇的な物語が語られると、印象が変わってくる。怪物は、人間たちが家族や恋人同士の間で愛しあっているのを見てそれにあこがれるが、彼のあまりの醜さのせいで拒絶され愛を受けることができない。それに絶望した彼は、愛を享受している人間を憎み殺す。さらに、平穏に暮らそうと考え、自分の伴侶を作るようにフランケンシュタインに頼むが、それもかなえられない。

フランケンシュタインは怪物を悪の権化のようにみなしているが、彼は非常に人間らしい。外見が醜くても精神は綺麗な存在が、その外見によって拒絶され、精神まで醜くいものに侵食されていくのが読んでいてつらい。醜く作り出され拒絶され続け堕落した怪物にあたえられた救いは、結局、フランケンシュタインの死と、自ら命を絶つことだったというのは非常に悲しかった。

あと、あとがきの分析の鮮やかさには感心した。知識の獲得、孤独、そういうものがテーマとしてあるというのは何となく考えてはいたけど、ああいうふうに明文化され分析されると、自分の中の印象にしか過ぎなかったものが形になった気がして面白かった。